TOKIWA SCENARIO

PROJECT SAPPHIRA AGONIST

agonist 一章冒頭

ジリリリリリリリリ。
けたたましい電話音が鳴り響く。
2回、3回と鳴っても止む気配はなく、また取る者も現れない。
男「・・・・・うるせぇなぁ。」
どうやら寝起きらしい、この部屋の主であろう男が呟いた。
長身細躯で端正な顔つきをした・・・年齢は恐らく20代前半といったところであろうか。
男「・・・・・ウゼぇ。」
睡眠を邪魔されたのが余程頭にきたらしく、あたかも仇のように電話を睨みつける。
男「こんな朝っぱらから・・・一体どこのどいつだ?」
疑問を口にしてみるがそんな事をしてくる人間は一人しか思い当たらない。
男「ギルドか。無視したいところだが・・・そういう訳にもいかないか。」
そう呟き男はとてもめんどくさそうに受話器を取り上げた。
ガチャ。
男「あーもしもし?」
中野「おはようございますアカツキ・・・もしかして寝ていましたか?」
抑揚は効いているが高い声だ。電話の相手は女らしい。
アカツキ「もしかしなくても寝起きだよ。それで・・・何の用だ?」
アカツキと呼ばれた男はぞんざいな口調で答える。電話の人物とはあまり友好的な関係ではないようだ。
中野「私があなたに用と言えば一つしかありません。」
アカツキ「依頼か・・・今度はまともなやつなんだろうな?」
中野「前の依頼はそんなに気に入りませんでしたか?」
アカツキ「よくも抜け抜けと・・・前回俺がどんな目にあったのか知らないとは言わせないぞ。」
まるで苦虫を噛み潰したような顔でアカツキは続ける。
アカツキ「あれは確かこうだ・・・俺が依頼通りにガキばっかのシケたパンピー共を追い払おうとしたら突然、地元のマフィアが一斉に押しかけてきやがった。」
アカツキ「当然のごとく巻き添えを喰った俺は止む無く連中の相手をする訳だが・・・。」
アカツキ「派手な撃ち合いで場は阿鼻叫喚の地獄絵図に様変わり。ようやく片付けたと思ったら今度はサツに勘付かれ・・・。」
アカツキ「あげく天下の公道でパトカー相手にカーチェイスと洒落込むはめになった。」
その時の様子を思い出しているせいか、アカツキの表情がより一層厳しいものになる
アカツキ「これはお前達の不手際だ。あのパンピー共が火遊びしていた場所がマフィアの領地内だって事くらい調べりゃすぐに分かることだろう?」
そんなアカツキの指摘も何処吹く風。中野は淡々とした口調で反論する。
中野「その程度の事は自分でも調べられたはずでしょう。自身の怠慢を人のせいにしないで下さい。」
中野「それにあなたにはそれ込みの報酬を支払っているはずです。」
はっとなるアカツキ。そういえば依頼内容の割にはやたらと報酬が高かったような・・・。
アカツキ「はぁ・・・そういう事かよ。分かってたのなら事前に教えてくれてもバチはあたらねぇだろ。」
中野「まあ、その辺についてはこちらも反省することに吝かではありませんが。」
アカツキ「死んじまったらどうするつもりだ?」
中野「つまらない冗談ですね。あの〔手甲のアカツキ〕が二流マフィア如きに殺されるはずがありません。」
断言した。
中野「現にあなたは無事だったのでしょう?」
にべにもなく聞いてくる中野に苦笑しながらアカツキは答える。
アカツキ「まあな。お陰様で五体満足の健康体だよ。」
中野「とまぁ・・・過ぎた事はここまでにして本題に入りたいと思います。」
皮肉を見事にスルーして話を進める。
中野「今回の依頼は護衛任務です。期間は1日、護衛対象は〔中央会〕のVIPになります。」
アカツキ「中央会?珍しいな。連中なら自力でどうにかしそうだが・・・。」
〔中央会〕ーーーー純国産のマフィア、一般に暴力団といわれるカテゴリの中では現時点で最強最大を誇るものの名称である。
中野「そうですね。通常なら彼らもそうするでしょうが、今回は特別です。」
アカツキ「特別?」
訝しむアカツキだが無理もない。今までの経験則からこの手の「特別」にろくな事があった試しは一度だってありはしない。
中野「ええ、そうです。なんでもこのVIPとやらが曲者でして危険地帯を通るのにも関らず「護衛は要らない」と言って聞かないそうです。」
アカツキ「ちょっと待て、今危険地帯とか言ったよな?」
中野「ええ、それがどうかしましたか?」
悪びれた様子が全く無い返答を聞いて頭が痛くなるがここで引き下がる訳にはいかない。前回の二の舞は絶対に御免だ。
アカツキ「サラリと流すな。俺にとっては死活問題だ。護衛対象とその危険地帯の詳しい情報をよこせ・・・話はそれからだ。」
中野「駄目です。今回の依頼は非常にデリケートなものですので、受諾を得られるまで無闇に情報を流すことは出来ません。」
アカツキ「あっそ、じゃあ諦めな。俺は降りるぜ。」
これ幸いと受話器を置こうとする。
中野「いいんですか?報酬は1000万ですよ。」
アカツキ「・・・何?」
手が止まる。
中野「報酬は1000万。さっきも言った通り、危険地帯の中VIPを目的地まで無事送り届ける単純な任務です。その単純さ故に難しくはありますがあなたの実力なら問題ないでしょう。」
中野「VIPは護衛を拒絶していたそうですが、先方が強引に説得した形ですので護衛対象との摩擦は避けられないでしょうが・・・。」
1日限りの護衛任務で1000万なら危険も承知でやってみる価値は十分にある。
アカツキ「分かったよ・・・受けてやるよ。」
ふっと中野が笑った気がするがあえて無視する。
中野「では早速そちらの方に詳しいデータを送りますので後はよろしくお願いします。」
アカツキ「ああ・・・いつも通りでいいんだな?」
中野「ええ、では私はこれで失礼します。」
ブツッ・・・ツー、ツー。
アカツキ「フゥ。危険地帯とか言っていたが・・・少しは楽しめるといいな。」
受話器を置きながらさもつまらなそうに呟くがその顔は確かに嗤っていた。
アカツキ「では・・・ぼちぼち動くとしようかな。」